ORIGINAL FABRIC

1954年に生地問屋として創業以来、長年の経験から、生地への独自の思いを形にしようと生み出したオリジナルの生地。
自社で企画から染色、仕上げと一貫管理しています。

  • 日本の職人たちの手間と時間を掛けた工程による、「見た瞬間、触った瞬間、驚きがある生地」を目指しています。

  • 天然素材本来の風合いを引き出し、着始めから肌なじみの良い、“雰囲気の良い製品に仕立て上がる生地“に挑み続けています。

  • 目標とする生地のために、リサイクルウール、オーガニックコットンなども使用し、サスティナブルやSDGsといった課題に取り組んでいます。

COLUMN

作品に命を吹き込む生地

written by三宅和歌子

フリーライター/エディター

ライフスタイルと旅、カルチャーなどを中心に、執筆や編集を手がける。布好きでもあり、2019年にはラオスの布作りを見て回るひとり旅も。
現在、&Premium(アンド プレミアム)、Casa BRUTUS (カーサ ブルータス) 等、雑誌を中心に活動中。著書に『日本の伝統的織もの、染めもの』(日東書院)。Instagram

photo by菊池陽一郎

フォトグラファー

人物、静物、食、旅など、ジャンルにとらわれず活動中。

体にまとうとふわりと空気を包んだように感じる〈小松和テキスタイル〉のオリジナル生地。

その秘密は、1954年の創業以来、生地一筋に追究してきた経験から選んだ生機(きばた)、独自の染色技術などにあります。
特に染色では、生地に余計な負荷をかけず状態を見ながら少量ずつ丁寧に 染め、それが、柔らかく風合いのある仕上りを生み出しています。

現代では貴重になりつつある 職人による手仕事が、あたたかみのある自然な色み、唯一無二の肌ざわりや着心地を作り出しています。

江戸時代の伝統染色技法を復元

〈小松和テキスタイル〉のオリジナル生地で作られた服をまとったときに感じる、まるでストレスのない気持ちよさ。これは何だろうと思っていたら、どうやら「東炊き」と呼ばれる独特の染色方法に理由があるよう。初めて聞くその言葉に、どういうものなのかもっと知りたいと、実際に染色を行っている東京・向島にある〈川合染工場〉へ案内してもらいました。

朝7時、冬ならまだ暗いうちに仕事は始まります。迷路のような工場内では、1階で織り上がった生成りのままの生地・生機のチェックと染色、2階で乾燥と検品、出荷が行われ、それぞれ熟練の職人が、あうんの呼吸で忙しく働いています。

そもそも東炊きとは、東京の“東(あずま)”と“炊き込み”を組み合わせた造語。
江戸時代に行われていた、織り上がった生地を小さな五右衛門風呂に入れ、草木から抽出した色を混ぜてじっくりと煮て染める“釜入れ”という染色技法を現代に蘇らせたものだそう。
五右衛門風呂の代わりに小さな鉄釜で染めるのが特徴で、それにより、ほかにはない質感が生まれます。

東京以外でも、江戸時代から絹・絹染・銘仙で知られる栃木県足利・織姫神社の地で行われている「織姫炊き」、瀬戸内の穏やかな海と日本一小さな山・御山を望む、香川県の旧琴平で作られる「琴平炊き」があり、どれも「東炊き」と同じ〈小松和テキスタイル〉と共同で開発した炊き込みによって染色がされています。

この3つの地にて作り出される生地は、時間も手間もかかった特別なもの。
製品にしたときも、手仕事ならではのゆらぎがあり、ふんわりと柔らかいのにシルエットはきちんと立体的になる、ユニークな特性があります。

手間と時間をとことんかけ、妥協なく生まれる

〈小松和テキスタイル〉が、長年、生地一筋で積み重ねた経験から生まれた思いを形にしようと、東炊きを始めたのは 2010年のこと。
“大量生産とは違う価値観のものを作りたい”。その思いで全国の染工場を訪ね歩き、一緒にやってくれるところを探し、最後に出会ったのが、ここ〈川合染工場〉でした。

100年以上途絶えていた技術を復元し、今の時代に合わせた染色をするのですから、簡単にはできません。釜の大きさ、染料の配合、薬剤を入れるタイミング、染める温度や湿度、時間など考えなければいけないことはたくさん。最初は失敗ばかりだったといいますが、諦めずに何度も試行錯誤。求めていた最初の生地を生み出すには、なんと1年以上かかったとのこと。

通常の染色に比べ、手間は膨大。それゆえオーダーから納品まで約3ヶ月かかるといいます。それでも、この技術が作り出す着心地のよさは格別。どこにもない、どこにもできないものとして、人気を高めています。

職人の手仕事が生む、独特の風合い

「東炊き」の最大の特徴は、通常よりも小さな釜で染めること。それによって生地と生地がよく揉まれ、釜の壁にぶつかることを繰り返します。
すると、芯が抜けて柔らかく、くったりとした落ち感が生まれます。
そのほかにも石灰などの自然物でいったん生地をリラックスさせてから染めるなど、手を掛けることで、 自然界に見られるような奥行きのある色合いに染め上がります。

釜の小ささゆえ、長さ100mを染めるのにおよそ1日がかり。一度に入れられる量にも限りがあるので、大量にはできません。しかも、釜に入れてあとは機械におまかせ、というわけにもいきません。

なぜなら、その日の気温、湿度によって炊き込む時間などを変えなければならないため。職人がつきっきりで管理することが必要だから。この日も、職人が途中で何度も生地をチェックし、最適な仕上がりになるよう細かく調整していました。

同じような機械を使って染色しても、工場によって染め上がりには大きな違いが生まれます。それは職人の技術によるもの。機械まかせにするのではなく、自分の目や手で確かめ、プロにしかわからない微妙な部分も修正していくことで、満足のいく製品が完成します。

染め上がった生地は脱水され、乾燥へと向かいます。染める前の生地は幅約150cm。染色後は約115cmまで縮むものもあるそう。そのぶん生地が揉まれているということで、製品後は洗濯しても縮んだり、伸びたりすることは少ないといいます。

乾燥が終わったら4人がかりで検品し、畳み、納品へ。どの工程でも必ず人の手が入り、すべての作業が意外なほど手仕事だというのがわかります。

現在、東炊きの生地は130品番。オンラインショップでは厳選した品番から紹介していきますが、それぞれ何度も試作を繰り返し、誕生したものです。染料の配合はレシピにのっとって、限られた職人だけが行います。懐かしい分銅によって重さを計り、次の日に染める染料を前日のうちに作って用意しておきます。

画一的ではない、ゆらぎが魅力

手仕事ゆえにシワが多く、たまに色ムラも見受けられます。大量生産の規格品では欠点とされますが、これは決してダメージではありません。作家の器が作り出す微妙にゆがんだ形、木工製品の彫り跡などと同じ、一点ものに近い個性や温もりでもあります。手仕事が見直されている今、完璧を目指しながらもふと残ってしまう痕跡は、まるで生き物のようでもあり、望んでも得られない魅力になっています。

生地のメインは、自然素材である綿と麻。特に麻は日本古来の素材で、江戸時代にも盛んに着られていました。そのため、当時の染色方法に近い東炊きとの相性は抜群。コシの強さやソフトな肌触り、吸湿性に優れ、使うほどに肌に馴染んでいく麻の持つ特徴を存分に生かしてくれます。

持続可能な社会に向けて

さらに、通常の綿や麻だけでなくリサイクルウールやオーガニックコットンも使用。リサイクルウールは生産過程で必要な水やエネルギーを大幅にカットし、環境への負荷を抑える毛素材。
オーガニックコットンもまた、化学肥料や農薬に頼らず、自然の恵みを生かして栽培。健康負荷や環境負荷を最小限に抑えるとともに、児童労働を禁止し、労働者の健康や安全にも配慮しています。どちらも SDGsの達成に貢献できるサステイナブルなマテリアルです。

持続可能な社会を目指すことも〈小松和テキスタイル〉の役割。SDGsを達成するアイテムを積極的に取り入れることも今後の目標としています。

「東炊き」「織姫炊き」「琴平炊き」。熟練の職人が手間と時間をかけて作る生地には、多くの人の熱意や挑戦が込められています。
人がまとうものだから安全で、気持ちよく、美しいものでありたい。その作り手の思いは、着る側の意識にも知らないうちに働きかけてきます。着たときまっさきに、肌が心地いい、と感じる理由は、そこにこそあるのかもしれません。

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